ひとりの小柄な男が、大きな道路沿いの石畳を歩いていく。
柔らかに立ち込める霧の姿勢は低く、窓から微かに漏れる灯りを乱反射して街の輪郭を曖昧にする。
"CLOSE"の面を表にして扉に下げられた札。
暗いショーケースの中で項垂れるぬいぐるみ。
どこを見渡しても人気はない。この寒さなら当然だろう。
彼が雪を踏み締めながら歩む音だけが微かに響き、他には物音ひとつ聞こえない。
彼は行くあてもないままに歩き続けていた。
手にしていたはずの荷物は、どこかでゴミ箱の中に放り投げてきた。
既に意識は朦朧としているらしく、乾いた指で何度も目を擦りつけている。
やがて、だんだんと足取りが重くなる。
夜が明けても人目につかないであろう路地裏に入りこむと、男はゆっくりと膝をつき、そのまま地に伏した。
後には静寂だけが残された。
…雪が、また降り始めたようだ。
少し氷り始めていた雪を覆い隠すように、新たな雪が積もっていく。
男の足跡はもう見えない。