2022 01 10

ひとりの小柄な男が、大きな道路沿いの石畳を歩いていく。

 

柔らかに立ち込める霧の姿勢は低く、窓から微かに漏れる灯りを乱反射して街の輪郭を曖昧にする。

 

"CLOSE"の面を表にして扉に下げられた札。

暗いショーケースの中で項垂れるぬいぐるみ。

 

どこを見渡しても人気はない。この寒さなら当然だろう。

 

彼が雪を踏み締めながら歩む音だけが微かに響き、他には物音ひとつ聞こえない。

 

彼は行くあてもないままに歩き続けていた。

手にしていたはずの荷物は、どこかでゴミ箱の中に放り投げてきた。

 

既に意識は朦朧としているらしく、乾いた指で何度も目を擦りつけている。

 

やがて、だんだんと足取りが重くなる。

 

夜が明けても人目につかないであろう路地裏に入りこむと、男はゆっくりと膝をつき、そのまま地に伏した。

 

後には静寂だけが残された。

 

 

…雪が、また降り始めたようだ。

 

少し氷り始めていた雪を覆い隠すように、新たな雪が積もっていく。

 

男の足跡はもう見えない。